最近UXといえばUIをどうするかみたいなイメージがすぐ湧いてしまいますが、UXはあくまでユーザー体験の事であり、UIが全てではありません。Osaka Mix Leap Studyにて、面白法人カヤックのデザイナー岩瀬さんが面白く、ためになるお話をしてくださいました。
今回は「ぼくらの甲子園!ポケット」というスマホゲームで実際にやっている例をもとにしたお話です。
ぼくらの甲子園!ポケットとは?
ぼくらの甲子園!ポケットというゲームは2014年9月にリリースされたゲームです。
スマホの野球ゲームは自分が監督になり理想のチームを作る、というものが多いのですが、このゲームは複数のプレイヤーがチームを組んで他のチームと戦う、という一風変わった形のゲームです。
このゲームのUXとは
UXというのは本来は User Experience つまりユーザー体験ですが、このゲームの開発陣は「友情エクスペリエンス」と呼んでいるとのことです。
このゲームはユーザーに提供したいものが他のゲームと異なり、「友情体験」を提供したい、というゲームとのことです。ゲームの中で他の誰かと繋がる機会があり、その人達のために何かをしてあげたり、また一緒に遊びたいと思えること、そういった事を重要視しています。また、仕様を決めるときもいかに友情体験を生み出せるか、というところを優先して決めていくそうです。
「甲子園」というのは世の中的に誰でも共通認識があり、高校球児になりきりやすく、重要な体験が生まれやすいとのことです。スポーツゲームというよりは、「高校球児RPG」だそうです。
具体的にどういった体験によりゲームを良いものにしているのかを紹介していきます。
友情エピソード
ユーザーが体験したことを投稿できる機能がゲーム内にあるとのことです。その投稿数は現在4,000件ほど。冊子にして配布したこと等もあったようです。
例えばこのゲームは9人の仲間を見つけないと試合をすることができません。ゲームに登録してもそこまでは何も遊ぶことができないのです…。すごい話ですが、「まさに弱小野球部のドラマ」と言われていました。それに関連して下記のような友情エピソードがありました。
ぼくポケをはじめて2年になりますが、最初は試合にも出られませんでした。 試合に出られたのは3ヶ月後のこと。
しかし全く歯が立たない。 それでも諦めずに頑張っていき、だんだんとチームメンバーとの結束も強くなっていきました。 そして遂に1年で甲子園常連校にまで成長しました。
最初にチームになった部員も誰ひとり欠けることなく現在もチームメイトです。 ありがとうございました。これからもがんばっていきたいです。
仲間と一緒に頑張った体験、それ自体がユーザーにとって素晴らしいものなんですね。たしかにこれこそ本当の意味でのUXという気がしてきます。よくよく考えるとUXはUXであり必ずしもUIとは関係がないものなんですよね。
面白いのは、このあと説明する仕様を読んでから前述のエピソードを読むと更にすごみが増す、というところです。なかなかこのゲームは一筋縄では測れないゲームでした。
ゲームの仕様が過酷
なんとこのゲームは1日4回、決められた時刻に試合をしに行かなければならないそうです。そのため試合をサボったりするとチームメンバーに怒られます。つまり甲子園常連校ということはおそらくほとんど全ての試合に出ているということなんですよね…かなり大変そうです。
実際に、既婚者中心のチームがあったようで、家庭の事情からみんなあまり時間が取れず、妻のいないところでこそこそとプレイして、見つかりそうになったらいきなり「妻が来た、落ちます」とだけチャットを残して退散していなくなる、みたいな事があるようです。そしてチームメイトも明日は我が身と戦々恐々。
遊園地にいって空いている時間で参戦したり、奥さんと喧嘩中に参戦したり。すごいのはそんなこんなで初優勝まで行けたということ。これは確かに友情エピソード投稿をしたくなる気がします。
他にも、手術台の上でやってくれた人もいたそうです。お医者さんも「手術台の上でゲームをしていいか」なんてはじめて聞かれたと言っていたそうです。
友情体験のためならなんでも作る
ある日プランナーが「野球じゃなくてもいいんじゃない?」といったことで、野球以外のイベントも色々と追加されることになったようです。
- 釣り
- ダンジョンでドラゴン討伐
- マネージャーと自転車で帰るチャリ走系
等
どれも野球ではないですが、仲間と一緒にいる気持ちで遊べるように、という部分などは一貫して作られていました。ユーザーに提供したい体験(UX)を純粋に追求して作っているそうです。
みんなが集まる場所をつくる
WebデザインのUI/UXといえば操作性にこだわることでユーザーの体験を良くしていくというところですが、あくまで友情体験を高めることが重要なため、1画面で操作しやすく、というよりは2画面になってでも高校野球の雰囲気を出せる画面にして、没入感を高めるような演出を増やすことを重視しているそうです。例えば教室、グラウンド、喫茶店など。
皆で集まり、待ち合わせるという体験そのものに喜びがあるため、その世界にいられることが感じられるように記念写真のようなアングルを意識した画面デザインを設計したりしています。
甲子園新聞
甲子園新聞というのはこのゲームの最高報酬です。甲子園で優勝したチームだけに送られるものです。
この甲子園新聞の驚くべきところは、全部フォトショップにより手作りされているというところです。しかも、ユーザーが要望すると運営がなんとなくそれっぽく対応してくれるということで、だんだんとユーザーの要望がエスカレートしてしまい、今ではかなりの要望が増えて来ています。
今ではもうテニスやファンタジーの背景にしてほしいだったり、ユーザーのアバターすらもう全然違うものにしてほしいという要望だったりで、野球とは関係なくなるレベルで様々な要望が来るとのこと。
ユーザーのチャットで色々と要望の発言があるので、それをスプレッドシートにメモして、関係ありそうなものを抽出してまとめる、という感じでめちゃくちゃ大変とのことでした。
しかも優勝が決まるペースが2週間に1回のため、そのスパンで作成されているとのこと…。大変すぎます。
しかも優勝後は他のチームに移ってしまうユーザーもいるため、解散する前になんとか翌日には新聞を出したい、という感じで命がけでやっているそうです。(昔はもうちょっと早く出していたけどさすがに無理になってきたとのこと)
「人の心を動かすには手をかけるしかない」という事を言われていました。
ぼくポケ会議
運営とユーザーが集まって色々とブレストを行う会議が時々開催されているそうです。言うならば運営とユーザーの友情。
スマホゲームをやっていると結構厳しい意見も多いのですが、そういう意見を言うユーザーを場に呼んだらどうなるだろう、と思い招いてみたところとても良い方で、ゲームに対して思い入れを持っているからこそ厳しい意見が出てくるという事がわかった、というエピソードがあったそうです。
たしかにユーザーからしても「なんで運営は分かってくれないんだ」というようないらだちって結構多そうですよね。実際に意思疎通をしてわかりあえるということもよくあることですので、非常に有用そうに思いました。
他にも
・アバター入いの名札つくった ・トレーディングカードみたいにした ・キラカードを入れた(キラシールを貼るのが非常に大変だった) ・過去甲子園新聞を全部展示した
等をぼくポケ会議の際にやったりしているようです。
UXについてのまとめ
このように、本当の意味でのユーザー体験を高めるための工夫を必死でされている様子が伺えました。もしUXといえばUI、という固定概念を持ってしまっている方がいれば、一度このあたりの意味を見直してみると良いかもしれません。
僕自身も色々とサービスを作るため普段からUXについて考えることは多いですが、まずUIどうするか、みたいなところから考えている事がほとんどだったため、今回はかなり色々と考えさせられました。
質疑応答
あとは質疑応答があったためそのあたりをまとめておきます。
面白いことのビジネスのギャップの埋め方
面白いことをしたいという気持ちと、ビジネス上やらなければならないことというのは必ずしも一致することではないため、このギャップを埋めるためにどうしているのか、という質問でした。
そもそもカヤックに依頼が来る場合、その時点である程度面白いことを期待されているので、普通に作るよりは最初から面白いことを考えながら仕事ができる、とのことでした。そういうイメージを持たれる、ということ自体が役得ですね。
1日4回の試合は大変すぎるので開発時に否定する人はいなかったか?
正直この仕様は離脱も多いと思いますが、その分熱中してくれるユーザーが残って盛り上げてくれているのでは、ということでした。
このゲームは2014年頃にリリースされたもので、さらに前身のゲームがそもそもありました。そのあたりはまだ今のようにスマホゲーといったらこんな感じ、みたいな固定概念がなく、各社色々と試してやっているような時代だったため、割と開発時にもユーザー側にもこのルールが受け入れられやすかったとのことです。
そのため今この仕様のゲームを作ると厳しいのでは、とのことでした。
甲子園新聞のコストとリターンはつりあうか?
全く釣り合いません。ある意味度外視でやっているとのことでした。
デザイナーはその日それしかできませんし、社内のリソース管理も今はそれで調整するようになっているようです。
UXの熱量の共有のしかた
プロジェクトに入ったときに説明します。説明してあげないとあとでしんどくなるとのことですがたしかに絶対そうだと思います。知らないで任されたら辛そうですね…。
改修の要望等については、優先的になおすのはみんなが楽しめるものになってるのかな? というところです。
例えばボスのとどめ報酬を作ったことがあったのですが、誰がトドメをさすかでもめるイベントつくってしまったこともあったそうですので、そういうのは止めたそうです。
新聞で仕事が増えるからやめようというメンバーはいなかった?
今も思ってると思うとのことです。でも甲子園新聞は最高報酬であり必要なものなので、なぜやることにしたのかをちゃんと共有しないといけません。結構議論もしましたし、岩瀬さん自身もも言ったことがあるそうです。これ以上は無理だ、という話を投げかけましたが、色々と話をして最終的にやろうということになった、ということです。
ゲーム、Web、アプリのUIで共通して意識してること
目的を考えることです。例えばこの画面ではこのボタンを押させる、など。その目的のためにどういったUIにするか。
どれが一番重要か、不明瞭だったらディレクターと話すします。
ゲームはセオリー通りじゃなかったりします。セオリーだけで楽しむのが全てじゃない部分があります。アプリもWebと同様セオリーがあったりします。
デザイナーの人数
- デザイナー58人
- 全体311人
- 58人のうち半分がソシャゲ
- 1チーム110名くらい
情報系学生がUI/UXデザイナーになるために必要なこと
- UI/UXについては職業の垣根がなくなってるので興味のある職業を選択すると良い
- 最新のUIパターンを集めるとセオリーがみえてくる
- ゲームだとその上に楽しさが加わって面白い
- 必ずしもUIデザインが必要というわけではない
カヤックのアンテナにひっかかる面白い人とは
何かを作る人。
「つくっていいとも」という社内イベントがあったりする。ほっといてもみんななにか作ってます。
ふざけすぎないラインとかある?
上場企業なのでソーシャルグッドは意識。 それなのにポケットフレンズコンチというのを作ってしまった。他にも色々。
多様性を大事にしてるのでルールがない。面白さをを定義しない(定義すると何かが失われてしまう)
まとめ
全体的に面白く、ためになる話でした。開始と終了時、急に近くの人と何か話してみてください、と言われて3分ほど話をする時間を与えられたり、ということもありました。焦りましたがそれはそれで面白かったです。カヤックはブレストを重視しているようなので色々とそのあたりも取り入れての内容でした。
ヤフーさんの開催しているOsaka Mix Leapは中々面白いものが多いので是非色々と見てみてください。
今回のイベントは下記でした。
駆け出しエンジニアからエキスパートまで全ての方々のアウトプットを歓迎しております!
0件のコメント